24卒の取扱説明書~「普通」を知らない新入社員とどう接するべきか

2020年の新型コロナウィルス感染症対策によって日本中に広まったリモートワークによって多様な働き方が浸透しています。そんな中、最近リモートワークから徐々に出社形式に戻す企業も増えてきているようです。実際にパーソル総合研究所の調査*では、2020年4月時点でのリモートワーク命令・推奨を行う企業(正社員ベース)が40%だったのに対し、2022年7月では33%にまで減少しています。しかし同じくパーソル総合研究所の調べでは、リモートワーク実施者の約80%がリモートワーク継続意向と、過去最高の数字になっています。このように、テレワークに関して、企業の方針と働く個人の意向の間にギャップが生まれつつあるのが実情です。しかも、リモートワーク実施企業の中でも、リモート普及にあたって行われた施策として「遠隔会議システム」や「チャットツールの導入」が多く挙げられていますが、それ以外に行われた施策の割合が小さいのが現状です。つまり、多くの企業がツールの導入のみに止まってしまっているのです。そのままでは新入社員は職場に適応できるのでしょうか。
特に2024年度に大卒で入社してくる現在学生の人たちは他の学年と違うところがあります。それは、「コロナ直撃世代」というところです。今となってはパンデミックも落ち着き、かつての混乱は忘れ去られた頃合いかと思いますが、世間が最も混乱していたタイミングに大学生活をスタートさせた世代が4年の時を経て社会人となるわけです。そのため、オンライン授業にオンライン新歓、オンライン面接などなど、オンライン上での活動が主でした。多様な働き方がある現在、企業は従業員だけでなくこれから入社してくる人材の理解にも努めるべきでしょう。24卒たちは多様化する働き方に対してどのように思っているのか、その実情をいまのうちに把握しておくことで、来年以降の会社の働き方戦略の参考になることでしょう。

*パーソル総合研究所「第七回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する調査」

24卒はどう学生生活を過ごしたのか

実際にヒアリング

今回は担当者が都内の私立大に通う24卒学生にインタビューしてみました。彼らはオンラインツールとどのように付き合ってきたのか、その実態を見てみましょう。

人事
人事

こんにちは、本日はインタビューにお越しいただきありがとうございます。佐藤さんは2020年に大学に入学された、所謂「24卒」の学生だと思うのですが、他の代と違って特筆すべきことがあるんですよね?

24卒
24卒

はい、我々の世代は大学入学時点からオンライン授業を経験しています。なので、我々にとっての「普通」がオンラインなのです。確かに、大学4年生にもなると対面での授業や活動が増えていますが、大学四年間で大半の活動をオンライン上で行っていました。

24卒学生は、23卒、22卒以上にオンライン環境での生活が染み付いており、大学に「通う」という概念があまり浸透していない傾向があるようです。では、彼らが社会人として入社したときに企業が意識するべきことはなんなのでしょうか。リモートワークやフレックス制度など、自由度の高い働き方が浸透しながらも、対面出社の形式を復活させる企業も増加傾向にあるいま、新卒にとってどちらの働き方が適切で、どのような教育を行うことが効果的なのか、実際の学生のインタビューを交えてご紹介します

人事
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ありがとうございます。我々としても、時代の流れに合わせてリモートワークを導入していているのですが、新卒社員のリモート環境でのモチベーション維持や育成方法には難があります。直接フォローをしにくい環境であるのも難しいポイントなのですが、学生はどのようにしてオンライン授業を継続して受けていたのですか?

24卒
24卒

我々は入学時点からオンライン授業がスタンダードでした。それに加えて、サークル活動や課外活動もなくなり、家で授業動画を見る以外にすることがなかった、というのが正直なところです。さらに、大学生はある程度「サボり」を覚えながらその他の活動と合わせて要領良く授業を受けていく能力がだんだん身についてくると思いますが、我々はそのような機会がありませんでした。なぜなら、「出席する」という行為に代わって大量の課題が課せられたからです。これは一年生の時の話ですが、大学一年生は一般的には時間割がかなり詰まっています。そのため、日によっては1日中パソコンの前に座って授業を受けるという日もありました。そのモチベは、先ほど説明したように「することがほかになかった」というのも大きいですが、もう一つ挙げるとすると、大学の授業、そしてオンライン授業という新たな経験が新鮮であったために意欲が継続していたと思います。加えて、学校に通う必要がなくなったため、授業を受ける際の障壁が低くなっているというのもあります。

このように、オンライン環境下でも学習意欲を維持できた理由に、授業を対面の時よりも受けやすいということも挙げられますが、他にも大学の授業とオンライン上で授業を行うこと自体が新鮮であることも重要な要素となるようです。

24卒
24卒

実際、前期の授業はオンライン上で授業を行っていましたが、全く苦痛ではありませんでした。新たな生活、新しく買ったパソコンで、新たな授業を受けるという体験それ自体が新鮮で、家にいながらも意欲的に学習的に取り組めたと思います。

しかし、この意欲が下がる時期があるのも事実です。私の場合、後期(夏休みが明けて10月ごろ)以降の授業ではオンライン上の授業に意欲を保つのが難しい状況でした。

人事
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なるほど、どういった原因でオンライン環境での意欲が下がってしまったのでしょうか

24卒
24卒

はい、それはオンライン環境は「真面目に取り組まなくてもなんとかなる」環境でもあったからです。例えば、授業動画の視聴履歴によって出席を確認している授業もありましたが、周りの話を聞くと、動画を流しながら他のことをしている人も少なくありませんでした。これは、実際に視聴しているかを確認する術がないため仕方のないことではありますが、オンラインの環境が従来の環境に比べて楽をできてしまう環境であるのは事実ですし、実際に私もそれを感じました。

人事
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詳しく教えてくれてありがとうございます。そのご経験からお伺いしたいのですが、なんの工夫もなくリモート勤務を行う場合、モチベーションはどのくらいの期間保たれると思いますか?

24卒
24卒

おそらく、3ヶ月から半年が限度だと思います。ただし、仕事内容が好きな人はこの限りではありませんが、心の底から仕事が好きな人の方が珍しいのではないでしょうか。最初は新たな仕事を覚えるフェーズがあり、そこは新鮮な気持ちで臨めるでしょう。しかし、その後は仕事内容によっては意欲を失いかねないかもしれません。

人事
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なるほど。たしかに、新入社員がいきなりリモート環境になった場合、最初の意欲を継続させるのは難しそうですよね

24卒
24卒

はい。コロナ禍で明らかになったのは、対面を好む派とリモートを好む派が明確に分かれていることです。

もちろん、テレワークでも継続的に、意欲的に働ける人は少数派でしょう。なんらかのモチベーション、もしくはプレッシャーがなければ自分を律することが求められるテレワークは逆にストレスに感じる場合もあります。しかし、オンラインの環境であるからこそ仕事のパフォーマンスが上がる人もいます。

人事
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オンライン環境は人のやる気を左右する環境であるということですね。便利な働き方で多様なニーズに対応できる反面、従業員のモチベーションを管理するという面では厳しいものがありますね。他にオンライン環境に慣れているからこそ留意しておくべき点などはありますか。

24卒
24卒

そうですね。我々は基本的に家にいることが多いので、対面での立ち振る舞いを理解していないことがあります、、、。いままでは二次元でのコミュニケーションが多かったので、三次元の空間で前にも横にも後ろにも人がいる環境に少しびっくりする人もいるかもしれません。いわゆる、「コミュニケーション」に関して、新入社員と元からいる社員の間でギャップを感じる可能性があります。あとは、いままでは人の名前がオンラインツールに表示されていたので、人の名前を意識的に覚えようという習慣があまりありません。突然対面する先輩社員が増えていくと、最初は名前を覚えるのに戸惑う場面があると思います。

人事
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そういうことがあるのですね。確かにオンラインツールでは名前が常に表示されている状態でしたね。やはり学生さんの目線でないと気づかないことが多く、参考になりますね。

24卒
24卒

そうだと思います。いまでは家のパソコンの前で1日中作業するのが習慣となってるので、朝から晩まで、毎日オフィスベースでの作業を苦痛に感じる人も増えています。根性なしと思われたらそれまでですが、大学四年間をオンライン環境で過ごしてきた学生たちのことを考えると、自然なことです。我々の世代では対面のインターンは人気が高い反面、長期間のインターンとなるとやはりオンラインの方が支持を集めるようです。実際に2週間のインターンに参加した友人も、最初の数日は対面での業務に新鮮さと楽しさを感じていましたが、やはり毎日通勤するというのはかなりの体力を使うようです。私も今までの生活に慣れてしまったため、突然オフィスベースでの働き方になった場合はかなり慣れるのに時間がかかると思います。

以上が、24卒学生の実態です。リモートの働き方が浸透している昨今では、「今」会社にいる従業員が満足できる働き方かどうかという視点を持ってしまいがちですが、それだけでなく、企業にとっての宝である新入社員が働きやすい環境であるかも同じくらい重要なのではないでしょうか。彼らの生活はコロナを期に変化し、会社勤めの長い我々ではなかなか気がつかない部分もあります。我々が経験したような授業も交流も課外活動もありません。そんな環境で形成される価値観や仕事に対する考え方にはどのようなものがあるのでしょうか。今の学生たちが社会人になったとき、彼らを受け入れる会社側としても把握するべき事項を改めてまとめてみます。

リモートスタンダードな24卒の特徴

一つ目に、あくまで生活のスタンダードは「リモート」である、ということです。つまり、「仕事として」ではなく生活習慣としてリモートで様々な活動を行ってきたのです。ここに学生時代コロナを経験していない会社の従業員側との意識の違いがあるかもしれません。学生は対面の必要性がない用件は基本的にオンライン上で済ませることが一般的な認識になっています。仕事上の例を挙げると、会議や面談、業務の進捗報告などは対面で実施しなければならない、という必要性はありません。コロナ禍の学生は学業においても、課外活動においても、オンラインツールを用いるのが一般的でした。そのため、会議や面談はなるべく対面で行いたいという方針の会社とは意識の齟齬が生じるかもしれません。

二つ目は、リモートでの作業には意欲維持が困難という問題点があるという点です。学生たちは普段からオンライン環境で様々なことを行ってきましたが、意欲の維持はやはり難しいことも窺えます。そんな中で学生がリモート授業を継続できた理由は大きく2点、「新鮮さ」と「プレッシャー」があるのだと考えられます。24卒学生も高校生までは学校に通って対面で授業を受けていたことでしょう。そこから大学入学というイベントとリモート授業という非日常体験を同時に経験したことで、最初の数ヶ月は意外と苦に感じている人はいなかったのではないでしょうか。これが「新鮮さ」です。もう一つの「プレッシャー」とは、大学でいえば単位、仕事でいえばノルマや締め切りなどです。このように必ず守らなければならない何かがあると、人は圧力を感じ、その圧力を解消したいがために行動を起こします。さらにはオフィスでは必ず発生する仕事仲間からの視線も圧力に入るでしょう。人から見られているという意識は少なからず作業の意欲につながります。学生たちは普段からオンライン上で課題や提出物、その他活動を進めているため、ある意味、このような対面の環境でのプレッシャーがなくても自律的にオンライン上で作業を進めることができるかもしれません。しかし、リモートでも自己管理ができる人やリモートでは無意識にだらけてしまう人など、タイプは様々です。さらに言うと、学生時代のリモート授業はうまくできても仕事がオンラインでできるかはまた別の話です。

三つ目は、リモートベース、もしくはオフィスベース、それぞれに向き不向きがはっきりしている点です。これは二つ目のポイントにも通じますが、明らかにリモートが向いてない人というのはいます。学生のうちは、友人や先輩など気軽に頼れる人の存在のおかげで積極的にリモート授業を受けていなくても卒業できる学生というのは、やはり一定数います。そういう人材は対人能力や調整力などに長けている場合もありますが、リモート環境下では自己管理が難しいというのも事実です。

こうした特徴を念頭に、来年向い入れる社員にとって働きやすい職場はどのような環境なのか、改めて考えてみてはいかがでしょう。

企業側にもとめらる工夫はなにか

リモート継続か、廃止か

調査結果からもわかるように、リモート勤務は従業員にとっては非常に都合のいい勤務形態であることは間違いありませんし、そのおかげで通勤時間や準備の時間が短縮されるため生活の質が向上するのも肯けます。しかしそんなリモートにも弊害はあります。例えば今までも紹介してきた通り、モチベーションの維持が難しい点です。学生たちがリモート授業を継続できたのは、「新鮮さ」と「プレッシャー」です。彼らがモチベを維持できるためには、ある程度の環境の変化と圧力が必要でしょう。それらを実現する施策を考えるには、完全にリモートにするかしないかといった議論ではなく、社員の意思を尊重した上で最適な働き方を模索してみましょう。例えば、定期的に上司との面談を組み、目標設定を明確に行うなどすることで、社員一人一人がやるべき仕事を明確化することが挙げられます。定期的に面談が行われることで気持ちの切り替えが行われると同時に、目標が上司との間で共有されているため、社員にとっては達成するべきものとして仕事への意識を高めることができるでしょう。他にも、毎日リモートではなく定期的に出社する日を設定する、もしくはその逆も考えられます。働く環境を定期的に変えることで気分のリフレッシュを図れたり社員自身が自分にとって生産性の高い働き方を見つけることができるかもしれません。

現状、学生を受け入れる準備はできていますか?

現在リモートワークに移行した企業やそうでない企業も様々ではありますが、これから入社してくる人材はリモートに慣れ親しんだ人材ばかりです。だからといって最初から完全リモートで突き放してしまうのでは生産性は上がりません。もしもリモートスタンダードな企業なら、どれぐらいのペースで現状確認を行うか、どのように社員とコミュニケーションをとるか、そもそも現在の働き方は従業員にマッチしているのか、など、リモートツールを導入しただけでは解決しない問題が山積みなはずです。オフィスベースの企業であっても、24卒の人材がいきなり毎日対面の環境についてこれるのか、リモートでできる仕事はないのか、柔軟な働き方に対応できているのか、など、リモートという働き方が台頭した今となっては向き合うべき課題がたくさんあります。どのような働き方にせよ、ツールや仕組みを導入しただけでは従業員が満足して働くことはできません。ましてやリモートでの生活が当たり前の24卒人材が定着しやすい環境づくりのためには、もっと職場の本質的な部分まで目を向けなければなりません。1年後の新入社員はあなたの企業の働き方をどう思うのでしょうか。