男女平等って何すればいいの?人事制度の面からお答えします

はじめに

日本は世界で最も男女平等度が低い国の一つです。世界経済フォーラム(WEF)が発表した2020年の「ジェンダーギャップ指数」では、153カ国中121位という低い順位にランクされました。この指数は、経済、教育、健康、政治の4つの分野で男女間の格差を測定していますが、日本は特に経済分野で大きな差が見られます。経済参加と機会の指標では、153カ国中121位、賃金格差では144位という惨憺たる状況です。

日本企業における男女格差の原因は、歴史的・文化的・制度的な要因が複雑に絡み合っています。戦後の高度経済成長期に形成された「男性中心の雇用システム」や「家父長制的な家族観」、長時間労働や残業が多い労働環境、出産・育児・介護などの家事負担が女性に偏っていること、無意識の偏見や固定観念に基づく性別役割分担などが、女性のキャリア形成や昇進を妨げています。

このような男女格差は、日本企業にとっても大きな損失です。女性の能力や才能を十分に活用できないことは、人材不足やイノベーションの停滞、国際競争力の低下などのリスクを高めます。実際、マッキンゼーやOECDなどの研究機関は、ジェンダーダイバーシティを推進することで、経済成長や生産性向上などのビジネス的なメリットが得られることを報告しています。また、社会全体としても、少子高齢化や経済停滞、ジェンダー平等への国際的な評価低下などの問題を招きます。

そこで本記事では、日本企業が男女格差を改善するために必要な施策を提案します。まず、日本における男女格差の歴史的文脈を概観し、現代の男女格差の原因を分析します。次に、企業が取り組むべき5つの施策を紹介します。それぞれの施策について、具体的な内容や効果、実践例を示します。最後に、まとめと今後の課題を述べます。

日本における男女格差の歴史的文脈と現代の原因

日本における男女格差は、近代化以降の歴史的変遷と密接に関係しています。明治維新以降、日本は西洋列強に追随するために急速な近代化を進めましたが、その過程で「文明開化」と「伝統文化」の間で矛盾や摩擦が生じました。特に、女性の地位や役割に関しては、西洋的な近代化と日本的な伝統の間で揺れ動くことになりました。

国の歴史的な観点から

明治期には、女性の教育や就労が奨励され、女性参政権運動も盛んになりましたが、一方で家父長制や男尊女卑の観念も根強く残りました。大正期には、大正デモクラシーや文化運動の中で女性の社会進出が進み、大正期には、大正デモクラシーや文化運動の中で女性の社会進出が進みましたが、一方で戦時体制や国家主義の高まりによって女性の自由や権利が制限されました。昭和期には、戦後の混乱期には女性の労働力が必要とされ、1946年には女性参政権が認められましたが、一方で高度経済成長期には「男性中心の雇用システム」や「家父長制的な家族観」が確立されました。

このように、日本の近代化は男女平等を目指す一方で、男女不平等を再生産する矛盾を抱えてきました。現代においても、この矛盾は解消されていません。日本は法律や制度面では男女平等を保障していますが、実際の社会や企業では男女間に多くの格差が存在しています。その原因として、以下のような要因が挙げられます。

  • 長時間労働や残業が多い労働環境:日本では労働時間が長く、残業や休日出勤が多いことが問題視されています。このような労働環境は、仕事と家庭の両立を困難にし、特に出産・育児・介護などの家事負担が多い女性にとってはキャリアアップの障害となります。また、長時間労働はパフォーマンスや健康にも悪影響を及ぼし、イノベーションや生産性の向上にもつながりません。
  • 出産・育児・介護などの家事負担が女性に偏っていること:日本では家事分担が男女間で不均衡です。内閣府の調査によると、2019年時点で夫婦共働き世帯における平日の家事時間は、妻が3時間41分なのに対し夫は1時間1分という大きな差があります。また、育児休業取得率も2019年時点で妻は83.9%なのに対し夫は7.48%という低さです。このような家事負担の偏りは、女性の就労意欲やキャリア形成を阻害するだけでなく、夫婦関係や子どもの発達にも悪影響を与えます。
  • 無意識の偏見や固定観念に基づく性別役割分担:日本では「男性は外で働き、女性は内で働く」という性別役割分担が強く意識されています。これは教育やメディアなどで繰り返し強調されてきたものであり、多くの人々が無意識的に受け入れています。このような性別役割分担は、女性が仕事を続けることや管理職に就くことに対して社会的な支持や評価が得られにくくなっています。また、企業内でも、女性に対して低い期待や偏った評価が行われることがあります。例えば、女性は家庭を優先するというステレオタイプに基づいて、重要なプロジェクトや海外赴任などのチャンスを与えられないことがあります。

人事制度の観点から

日本企業において男女格差が埋まらない理由を、人事制度の観点から教えていただきます。人事制度とは、企業が社員の採用や配置、評価や報酬、教育や育成などを行うためのルールや仕組みのことです。人事制度は、社員のモチベーションやパフォーマンス、キャリア形成などに大きな影響を与えます。そのため、人事制度が男女平等に配慮されていない場合、男女間に格差が生じやすくなります。

日本企業における人事制度には、以下のような特徴があります。

  • 年功序列制:年齢や勤続年数に応じて昇給や昇進を行う制度です。この制度は、長期的な雇用安定や忠誠心を重視する日本企業の文化に合致していますが、一方で、能力や成果に基づく評価や報酬を妨げることもあります。また、この制度は、男性が主たる労働者であり、女性が家庭内での役割を担うという前提に基づいています。そのため、女性が出産や育児などでキャリアの途中で休業や退職をすると、再就職や復帰後に年功序列制に沿った待遇を受けられなくなります。
  • 一括採用制:新卒者を一定期間に集中して採用する制度です。この制度は、新卒者の能力や適性を均一化し、教育や育成を効率化することを目的としていますが、一方で、中途採用者やキャリアチェンジ者の受け入れを困難にすることもあります。また、この制度は、学生時代から就職活動に専念し、一定の年齢で就職することを前提としています。そのため、女性が出産や育児などで就職活動を遅らせたり中断したりすると、一括採用制に沿った就職機会を失うことになります。
  • 終身雇用制:社員を定年まで雇用することを原則とする制度です。この制度は、社員の雇用安定や組織への帰属意識を高めることを目的としていますが、一方で、転職や再就職の機会や柔軟性を低下させることもあります。また、この制度は、一度就職したら定年まで同じ企業で働き続けることを前提としています。そのため、女性が出産や育児などで退職したり休職したりすると、終身雇用制に沿った雇用保障を受けられなくなります。

以上のように、日本企業における人事制度は、男女平等に配慮されていない場合が多くあります。その結果、女性は男性よりも不利な待遇や評価を受けたり、キャリア形成や昇進の機会を失ったりすることになります。これが、日本企業において男女格差が埋まらない理由の一つと言えるでしょう。

以上のように、日本企業における男女格差の原因は、歴史的・文化的・制度的な要因が相互に影響しあって生じていると言えます。これらの要因を変えることは容易ではありませんが、企業は自らの経営戦略や組織風土を見直し、ジェンダーダイバーシティを推進することで男女格差を改善することができます。次の章では、企業が取り組むべき3つの施策を紹介します。

企業が取り組むべき5つの施策

1. トップダウンでジェンダーダイバーシティを推進する

ジェンダーダイバーシティを推進するためには、経営者や管理職が率先して取り組むことが重要です。トップダウンでジェンダーダイバーシティを推進することで、以下のような効果が期待できます。

  • 経営戦略やビジョンにジェンダーダイバーシティを組み込むことで、企業全体の方向性や目標を明確にする。
  • 経営者や管理職が自らジェンダーダイバーシティに関する知識や意識を高めることで、リーダーシップやモデルケースを示す。
  • 経営者や管理職が部下や同僚に対してジェンダーダイバーシティに関する啓発や教育を行うことで、組織風土や文化を変革する。

実践例としては、みずほフィナンシャルグループ(みずほFG)が挙げられます。みずほFGは2016年から「ダイバーシティ&インクルージョン推進室」を設置し、グループ全体の取り組みを統括しています。また、代表取締役社長兼CEOの佐藤康博氏は自ら「ダイバーシティ&インクルージョン推進委員会」の委員長を務め、ジェンダーダイバーシティに関する方針や目標を策定し、実行に移しています。さらに、経営者や管理職に対しては、ジェンダーダイバーシティに関する研修やワークショップを実施し、意識改革やスキルアップを図っています。このような取り組みの結果、みずほFGは2019年時点で女性管理職の割合が13.5%となり、金融業界の中でも高い水準に達しています。

2. 柔軟な働き方を推進する

柔軟な働き方を推進することで、以下のような効果が期待できます。

  • 労働時間や場所、方法などを個人の状況やニーズに合わせて調整することで、仕事と家庭の両立やワークライフバランスを向上させる。
  • 労働生産性やパフォーマンスを高めることで、イノベーションや競争力を強化する。
  • 女性だけでなく男性も育児休業や介護休業などの制度を利用しやすくすることで、家事分担の平等化やジェンダー役割分担の見直しを促進する。

実践例としては、マネーフォワードが挙げられます。マネーフォワードは「働き方改革」を掲げており、以下のような施策を実施しています。

  • フルフレックス制度:出社時間や退社時間を自由に決めることができる制度。目標管理制度に基づいて成果を評価するため、労働時間ではなく成果に注目する文化が醸成されている。
  • リモートワーク制度:自宅やカフェなどで仕事をすることができる制度。コロナ禍では全社員がリモートワークに移行し、オンラインでのコミュニケーションやコラボレーションの方法を工夫している。
  • フルタイム正社員以外の雇用形態の多様化:パートタイム社員や契約社員などの雇用形態も積極的に採用しており、個人のライフスタイルやキャリアプランに合わせた働き方ができるようにしている。

このような取り組みの結果、マネーフォワードは女性社員の割合が40%と高く、女性管理職の割合も20%となっています。また、男性社員の育児休業取得率も100%となっており、家事分担の平等化も進んでいます。

3. 女性のキャリア開発やメンタリングを支援する

女性のキャリア開発やメンタリングを支援することで、以下のような効果が期待できます。

  • 女性が自分の強みや目標を明確にし、自信やモチベーションを高めることで、キャリアアップの意欲や能力を向上させる。
  • 女性が経験豊富な先輩や役割モデルからアドバイスやフィードバックを受けることで、課題や問題の解決策を見つけることができる。
  • 女性が同じ立場や志向の仲間と交流することで、情報や知識の共有や相互支援を行うことができる。

実践例としては、アクセンチュアが挙げられます。アクセンチュアでは、女性のキャリア開発やメンタリングを支援するために、以下のような施策を実施しています。

  • キャリアカウンセリング:女性社員に対して、キャリアプランや目標設定、スキル開発などに関する個別のカウンセリングを提供しています。カウンセラーは女性のキャリアに精通した専門家や経験豊富な先輩社員です。
  • メンター制度:女性社員に対して、自分の希望に応じてメンターを選ぶことができる制度です。メンターは自分の専門分野や業務内容、キャリア経験などに基づいてマッチングされます。メンターは女性社員に対して、仕事上の課題や問題の解決策、キャリア形成や昇進のためのアドバイスやフィードバックなどを提供します。
  • ネットワーキングイベント:女性社員に対して、同じ立場や志向の仲間と交流することができるイベントを定期的に開催しています。イベントでは、情報や知識の共有や相互支援、業務外の交流などが行われます。また、役割モデルとなる女性管理職や外部の著名人も招待し、講演やパネルディスカッションなども行われます。

このような取り組みの結果、アクセンチュアでは女性社員の離職率が低く、キャリア満足度も高いことが報告されています。また、女性社員の昇進率も高く、2020年時点で女性管理職の割合は25%に達しています。

4. 女性へのポジティブ・アクションを実施する

ポジティブ・アクションとは、男女平等を実現するために、女性に対して一定の優遇措置を行うことです。ポジティブ・アクションを実施することで、以下のような効果が期待できます。

  • 女性の管理職や役員の割合を一定の水準に引き上げることで、女性の社会進出やリーダーシップの機会を増やす。
  • 女性の管理職や役員が増えることで、組織の意思決定や戦略に多様な視点や価値観を反映させることができる。
  • 女性の管理職や役員が増えることで、女性社員に対するロールモデルやモチベーションを提供することができる。

実践例としては、日本航空(JAL)が挙げられます。JALは2019年から「女性役員登用促進プログラム」を開始し、女性役員の割合を2020年までに10%以上にするという目標を掲げました。このプログラムでは、女性役員候補者に対して、専任のキャリアカウンセラーやメンターを付けるなどの支援を行っています。また、女性役員候補者に対しては、役員ポストへの推薦や優先的な配置などの優遇措置も行っています。このような取り組みの結果、JALは2020年時点で女性役員の割合を10.5%に達成しました。

5. 女性向けの福利厚生や制度を充実させる

女性向けの福利厚生や制度を充実させることで、以下のような効果が期待できます。

  • 女性が出産・育児・介護などのライフイベントに対応しやすくすることで、仕事と家庭の両立やキャリア継続を支援する。
  • 女性が健康や美容などの自己投資に時間や費用をかけられるようにすることで、自信や満足度を高める。
  • 女性がスキルアップやキャリアチェンジなどの自己実現に挑戦しやすくすることで、キャリアアップの可能性を広げる。

実践例としては、ユニクロが挙げられます。ユニクロは「女性活躍推進プロジェクト」を展開し、女性向けの福利厚生や制度を充実させています。具体的には、以下のような施策を実施しています。

  • 出産・育児支援:出産祝金や育児休業手当などの経済的支援や、育児休業中でも昇給や昇格が可能な制度などのキャリア支援を行っています。また、保育園や学童保育所などの提携施設を利用できる制度もあります。
  • 健康・美容支援:健康診断や乳がん検診などの無料受診や、エステサロンややヘアサロンなどの提携施設を割引価格で利用できる制度があります。また、ユニクロの商品を社員割引で購入できる制度もあります。
  • スキルアップ・キャリアチェンジ支援:社内外の研修やセミナー、資格取得などに関する費用の一部を補助する制度があります。また、社内公募制度や自己申告制度により、自らのキャリアに関する意思表示や挑戦ができる環境が整っています。

このように、ユニクロは女性向けの福利厚生や制度を充実させており、女性社員の働きやすさや満足度を高めています。また、女性社員の割合も40%と高く、女性管理職の割合も20%となっています。

まとめと今後の課題

本記事では、日本企業が男女格差を改善するために必要な施策を挙げてみました。まずは日本における男女格差の歴史的文文脈から現代の男女格差の原因を分析しました。次に企業が取り組むべき5つの施策として、トップダウンでジェンダーダイバーシティを推進すること、柔軟な働き方を推進すること、女性のキャリア開発やメンタリングを支援すること、女性へのポジティブ・アクションを実施すること、女性向けの福利厚生や制度を充実させることの5つを事例として紹介しました。また、それぞれ具体的な企業の取り組みも上げましたのでぜひ参考にしてください。

とはいえ、当然ですがこれらの施策だけでは男女格差を完全に解消することはできません。企業だけでなく、政府や社会も協力してジェンダーダイバーシティを推進する必要があります。政府は法制度や制度改革を行い、女性の社会参加やリーダーシップの機会を増やすことが求められます。社会は教育やメディアなどを通じて、性別役割分担やステレオタイプなどの無意識の偏見や固定観念を払拭することが必要です。女性だけでなく男性も自分の役割や価値観を見直し、多様な働き方や生き方を尊重し合うことが、男女共同参画社会の実現につながるでしょう。
一企業として、いまできるアクションを起こしてみてはいかがでしょうか。