人手不足の原因と解決策|深刻な業界とその対策、企業への影響

人手不足の原因

時代の流れによる人手不足は各業界で発生しています。まずは、人手不足の原因についてご紹介します。

少子高齢化による労働人口の減少

少子高齢化が進んだ影響により、労働人口が減少しています。内閣府の「令和4年版高齢社会白書」によると、日本国内の生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに減少し、2050年には5,275万人(2021年から29.2%減)に減少すると見込まれています。

生産年齢人口の減少に伴い、労働人口も減少するため、優秀な人材を確保するための争奪戦が企業間で行われおり、今後もしばらくこの状況は続いていくと予想されています。

働き方の多様化による影響

昨今、正社員以外の働き方が増加し、契約社員や派遣社員、パート・アルバイト、業務委託契約など、会社や従業員の都合に合わせ多様な働き方が選択できる時代になりました。

一方で、非正規の社員は責任あるポジションへ配置することが難しいため、結果的に会社への定着率が低くなる問題が生じています。非正規雇用の社員を増やすことは、短期的には有効だとしても、人材不足の根本的な解決にはつながらない場合が多いといえます。

転職市場の活性化

近年、一つの会社で定年まで働く、いわゆる「終身雇用」の概念が薄れており、よりよい給与や環境で働ける職場を求め、転職する人が増えています。スキルとキャリアを積み重ね、次々と会社を渡り歩いているケースも少なくありません。

労働環境の整備が進んでいなかったり、賃金の改善が難しかったりする企業にとっては、転職市場が活性化すると、労働力が流出し人材不足に陥りやすくなってしまいます。

企業と求職者のニーズのズレ

需要と供給のバランスがあっていないことも、人手不足の原因の一つといえます。実は、業種によって有効求人倍率には大きな差があります。

例えば、事務系職種は人材の余剰がある一方で、土木・建設系や運輸系、介護・福祉系職種は慢性的な人材不足となっています。人手不足になりやすい職種の特徴としては、「深夜勤務や長時間労働、土日出勤が多い」「体力勝負にも関わらず給与水準が低い」などの理由があげられ、全体として離職率が高い傾向にあります。

人手不足の5つの解決策

人手不足を解消するためには、応募者向けだけでなく、既存社員向けにも中長期的な計画を実施するとよいでしょう。ここからは、その解決策を紹介します。

アウトソーシングを活用する

アウトソーシングはいわゆる「外注」のことで、特定の業務やサービスを外部の業者に委託して、社内の業務を補完します。

人手不足解消のために社員を新たに登用すると、給与以外にも福利厚生費などのコストがかかります。また、万が一業績が悪化してもすぐに解雇することが難しく、業績悪化の原因になりかねません。

アウトソーシングを活用し、繁忙期など限られた期間のみの契約を行えば、柔軟に人員の調節がしやすく、結果として人件費効率を高められる場合あります。また、業務委託先の専門知識やノウハウを活用できるため、自社での教育を省略しながら、品質や生産性を向上できます。

採用ターゲットや働き方の幅を広げる

前述の通り、生産人口は減少傾向にありますが、一方で働きたい女性や65歳以上のシニアは多く存在すると言われています。そのため、今までターゲットにしていた「人材」や「働き方」について再考すると、人手不足を解消できる場合があります。

女性の場合、結婚や出産、配偶者の転勤などのライフイベントにより、今までと同じ働き方が難しくなってしまい、離職するケースが少なくありません。また、シニア層においては、卓越した技術やノウハウはあるものの、体力的にフルタイムの就業が難しい場合があります。

これらの人材を確保するときに検討したいのが、時短勤務やテレワークの導入など、ワークスタイルや制度を整えることです。就職希望者のニーズに合わせた柔軟な働き方を提供すれば、優秀な人材からの応募を期待できます。

ただし、急に制度変更すると既存社員が混乱してしまうおそれがあるため、段階的に整えていくことをおすすめします。会社の新しい社内文化として浸透させるためには、最終的なゴールを見据え、予算やスケジュール、人員体制などのロードマップを作成し、長期的なプロジェクトして進めていくのがよいでしょう。

労働条件や待遇を見直す

労働に対する給与が見合っていない仕事は、多くの人材から「割に合わない仕事」とみなされやすく、離職率も高い傾向があります。

社員にとって、「働く環境」は最も重視することの一つです。特に転職希望者は、企業の給与や福利厚生などについては入念にリサーチしていることが多いので、一般的な福利厚生は可能な限り設定しておきましょう。

また、福利厚生に対する社員の満足度が高いと、定着率のアップにもつながります。さらには、自社らしい制度を整備すると企業の独自性や魅力となり、応募者へのPRになる可能性もあります。

業務プロセスを改善する

特定の人に業務が集中する「業務過多」や、必要なスキルの習得やアップデートが求められる場面が多い業務は、個人への負担が大きく、離職につながる原因となります。各メンバーの業務量が適切なのかを把握し、業務プロセスに無駄がないか、見直しを行いましょう。

また、社員それぞれの業務を可視化し、社内で共有できることも重要です。昨今は、業務を効率化するデジタルツールやサービスなどが多数提供されており、活用する企業も増加しています。業務が効率化されると、コスト削減はもちろん、社員のモチベーションの向上につながるため、人材流失のリスクを下げることも期待できます。

人材育成を強化する

時代の流れに合わせて、求められるスキルや能力も変化していきます。特に、昨今の急速なデジタル化など、時代の大きな変化についていくことと、それらにかかわる人材の育成環境を強化していくことは非常に重要です。

特に既存社員のスキルアップは、各々の生産性を向上させるだけでなく、やりがいやモチベーションアップにもつながります。その中でも最近注目されているのが「リカレント教育」。学校教育を終えて就職した後も、教育機関や社会人向け講座などを利用し、周期的に教育を受けて学び直しすることを指します。過去にインプットした内容を業務に活かしつつ、新しく習得したノウハウも即現場でアウトプットし、活躍の場を増やすことを目指します。

人手不足が深刻な業界とその対策

各業界で人手不足が起こっています。なかでも人手不足が深刻な業界と、その解決策について紹介します。

建設業

建設業界は若い働き手が少なく、労働者の高齢化が進んでいます。原因は、前述した少子高齢化のほかに、「肉体労働」「きつい・汚い・危険」などのいわゆる3Kのイメージにより、業界を選択する人材自体が減少していることがあげられます。一般的に給与水準も低く、離職率も他業種平均よりも高めです。

建設業の人材不足解消のための方法として、以下のような対策があげられます。

  • デジタルツールによる業務効率化
  • 外国人など採用ターゲットの拡大
  • 労働環境や給与水準の見直し

運送業

近年、ECサイトの普及や世界的な社会情勢の影響により、オンラインショッピングの利用者が爆発的に増加しています。それに伴い市場の物量が増加し、出荷や配送にかかわる業務も増加。しかし、その運送に携わる人は足りておらず、慢性的に人手不足となっています。

人手不足の原因としては、建設業界同様、従業員の高齢化と体力勝負の業務内容に加えて、「トラックの運転手=長時間労働」のマイナスイメージがあることが考えられます。

運送業の人手不足解消の方法として、以下のような対策があげられます。

  • 業務の標準化
  • AIやデジタルツール、ロボットなどの活用による業務の省力化や効率化
  • 労働環境の改善

医療・福祉業

看護や介護などの医療・福祉系職種は、高齢化や社会情勢に伴い、近年需要が増えています。しかし、厳しい労働環境や夜勤やシフト勤務などの不規則な勤務体系などにより、離職率が高い傾向にあります。

人手不足が続くと、一人一人の業務量が増加するマイナスのループに入り、忙しさからポジティブさやモチベーションを保てなくなり、離職につながるケースが少なくありません。

医療・福祉業界の人手不足解消の方法としては、以下のような対策があげられます。

  • デジタルツールを用いた業務の効率化
  • 福利厚生の充実
  • キャリアや教育支援

人手不足を放置することで起こる影響

最後に慢性的な人手不足の状態が継続することで、考えられるリスクや影響についてご紹介します。

労働環境の悪化により離職率が高まる

人手不足は、一人一人の業務量や責任が増えて、負担がかかることが多いため、長時間労働やハラスメントが横行しやすくなります。社員同士の人間関係が悪化し、社員の労働意欲やモチベーションが低下する可能性があります。

昨今は、ワークライフバランスを重視して働いている人も少なくありません。自身の心身への影響を考え、最終的な結論として職場を離れる選択するケースも考えられるでしょう。

新規事業の着手が困難になる

新規事業を立ち上げるには、企画の立案から推進までを行う人材を確保する必要があります。しかし、人手不足になると人員が確保できず、新事業への挑戦や事業拡大が難しくなります。人材不足が深刻化すれば、新規事業どころか事業を縮小しなければならない可能性もあるでしょう。

採用コストがかかる

人手不足解消のために、継続的な採用活動を行ったり、頻繁に募集をかけたりすることになるため、広告料や人件費などの採用コストが発生します。長期化するとその分コストも高くなります。自社にマッチする人材を確保するとともに、定着率を高められるように対策していくことが必要です。

解決策を講じて人手不足を解消しよう

人手不足は、複合的な要因で発生し、放置すると労働環境が悪化するだけでなく、業績の悪化につながる可能性があります。短期的および長期的な対策を講じて、人手不足を解消していきましょう。